魔法の名前はテイルズオブシリーズから拝借しております。(ダブルじゃないです)
時はセンカ王の時代。”覇王”と呼ばれた彼の王は、
異心ある貴族達の粛正に心を傾けていた。
抵抗なき貴族の方が珍しく、一度でも刃を向けたならば、
圧倒的武力で制圧する。
そうすることによって王家の支配力は増すばかりであったが、
しかし、平穏とは言い難き日々に、民は疲弊しきっていた。
そのような中で、王子リュウキは幼き頃に陰謀に巻き込まれ流罪となった
兄王子を探すため、ある夜に城を抜け出す。
しかしそこに、入れ替わるようにして茶家の兵が王城に
攻め込んで行ったのだった――。
「父上……みんな!」
混乱する城下。リュウキはただ立ち尽くすしかない。
戦火を避け逃げ惑う人々に突き飛ばされ、
尻餅をついてもまだ呆然としていた。
遠く漆黒の空に浮かび上がる赤、その方角には残してきたものが
たくさんある。
愛しい人たちが、いたはずだった。
そしてリュウキは一人の少女と出会う。
「あんたちょっとそこで何ぼーっとしてんの!茶州の奴らに殺されても知らないわよ!その前にみんなに踏みつぶされるが早いと思うけど!」
「あ、ああ」
「ほら、立ちなさい」
少女が手を差し出した。リュウキも手を伸ばす。しかし、少女は手を取らずにリュウキの手を見て少し驚いた顔をした。
「あら、血が出てる」
「あ、さっき転んだから……」
少女は、リュウキの手首を取ってそっと返し、その掌の擦り傷に自分の掌をかざした。
「……ファーストエイド」
リュウキの掌が光に包まれそこに穏やかな熱が生まれる。次にリュウキが目を瞬かせた瞬間には、その光も熱も、そして傷も消え失せていた。
――ファーストエイド。治癒魔法の初級呪文である。リュウキは驚いた。
治癒魔法だけだったら、リュウキはもっと上位の魔法が使える。しかし、魔法は貴族の専売特許のようなものだった。こんな市井で目にするとは。しかも、彼女は難なく使っているようだった。魔法の行使は精神力を使う。目眩も起こさないなど、その能力は――
目を丸くしたリュウキに、少女はにこりと笑った。魔法に驚いたと思ったのだろう。
「大丈夫?行きましょう」
そして再び伸ばされた手をリュウキは取った。
「私はシュウレイよ」
「よ……私はリュウキ、だ」
今は城に戻るわけにはいかない。リュウキはそう考え、暗闇の向こう、シュウレイの後をただ追うのだった――。
「――お前の王子様は、臣下を見捨ててどこかへ逃げたようだな」
男が見下ろして言うのに僅かに目を見開いて、それからコウユウは口の端を上げた。
男は揶揄するつもりで言ったのだろうが、その反応を見て気を悪くしたようだった。
「余裕だな!今置かれている立場がわかっているのか!」
男はコウユウの胸倉を掴んだ。その拍子に、じゃらりと鎖が引き摺られる音が鳴る。それは、コウユウの手首に嵌められた鉄の枷に連なっていた。
――城の地下牢。其処にコウユウは幽閉されていた。
男は乱暴に手を離す。コウユウは石の壁に背を打ちつけることになったが、それでも笑みを湛えたまま男を見上げた。
「王子様が生きていて嬉しいってか。――本当なら拷問にかけてでもリュウキ王子の居場所を吐かせたいところだが、それを外すわけにゃいかねえからな」
男がコウユウの首元を見やる。そこには複雑に編みこまれた組み紐が下がっている。一見首飾りにも見えるそれは、呪の掛けられた魔具だ。この所為で今のコウユウは声を発することができない。
(しらない)コウユウは唇の動きだけで、男に訴えてみた。
「ああ?信用できるか」
つまらなそうに、男が牢から出ていく。それを見送ってコウユウはそっと息を吐き、そして親友たちの無事を祈った。
一方、東の空が白んでくるそれをまんじりともせずに見つめている男がいた。
王族を人質に捕られ、軍は動くことが出来ない。武器を取り上げられ宿舎での蟄居を命じられていた近衛騎士団長ラン・シュウエイは、姿の見えない友人たちに思いを馳せる。
リュウキの行方が知れないのは、不幸中の幸いだった。しかし、コウユウは地下牢に捕らわれたと聞いた。
宵闇から徐々に姿を現し始めた宮城から火は上がっていない。どこかが崩れた様子もない。ならば、コウユウは魔法を封じられているのだ。
シュウエイは、ただ拳を握り締めた。