「本当にいいの?」
「いいと言っている。とっととやれ」
自分の恋した人は、どこまでも男らしかった。
「後で宮廷からいなくなったりしない?」
「そんなわけあるか」
当然だ。男だもの。
「絳攸……」
透き通る虹彩が、こちらを見上げている。何処までも生真面目な表情で待っている。
――劉輝の執務室を辞した後、口づけてもいいかと訊ねたのは、楸瑛だった。
深更の宮廷。人の姿は無く、あったとしても近くまで寄らなければ、顔の判別はつかないほどの暗さ。
問われた絳攸は僅かに逡巡したが、しかし驚くべき鮮やかさで首を立てに振った。
慌てたのは楸瑛のほうである。
確かに本気の言葉であったのだが、どうせ「ふざけるなこの常春頭!」と一喝されて終わりだと思っていた。
だから、驚いた。
「言い出したお前がためらってどうする!」
「じゃあ、遠慮なく。・・・・・・ぶたないでね」
「・・・・・・努力する」
どうにも色気のない雰囲気が気にかかったが、今更退くのも勿体無い。
じっと動かない絳攸の頬を両手で包み、そっと、触れるだけの口づけをした。絳攸の拳は飛んでこない。
それ以上深入りするつもりはなかったが、それだけでは面白くないので、去り際に絳攸の下唇を舌でさらった。その時だけ、絳攸の身体が震えたのが楸瑛にはわかった。
顔を離れると、絳攸は何とも言えないような複雑な表情をしていた。だが其処に嫌悪感は見て取れなかったので(動揺や恥じらいというものもまったく無かったが)、楸瑛は内心で息をつく。
「大丈夫?」
「・・・・・・あんまり嫌じゃなかった」
「本当?」
脈ありかと楸瑛は期待したが、絳攸の言葉は終わらない。
「あんまり楽しくもなかった」
「・・・・・・ああ、そう」
あくまで冷静な感想に、がっくりと肩を落とす楸瑛。
一方絳攸は、しきりに首を傾げている。
「なあ、楸瑛。口づけって好き合ってる者同士がするだろう?」
「そこから確認に入るのかい……?」
もうなんか自分の存在がイタ過ぎて帰りたいんだけれども、と楸瑛は言いたかったが涙とともになんとか耐えた。けしかけたのは自分だ。
そんな楸瑛の様子を気にすることもなく、絳攸は思索を続けている。
「……だから、好きなやつとやれば楽しいものかと思ってた」
「え?」
「なんだその顔は!」
一瞬言葉を失った楸瑛に苛立ったように絳攸が声を上げた。
「え、だって君」
「貴様俺を馬鹿にしてるだろう!俺だって口吸いの意味くらい知っている」
その顔には若干照れが混じっているのか、僅かに赤い。
「・・・・・・誰にでも許すわけじゃない。それともお前にとっては遊びなのか?」
「まさか!」
脈がないどころでは無かった。
「絳攸・・・」
胸が声なき悲鳴を上げていて、うまく言葉が出てこない。嬉しい、嬉しいと歓喜の叫びを上げている。
思い余って、絳攸に抱きついた。彼は抵抗しない。
「・・・・・・何か証が欲しいのか?」
呆れたような声がした。
「そうだったかも知れない」
本当だった。初心でもないくせにと自分を笑いたくなったが、この想いを伝えるのにどうしたらいいのか悩み続けたのは事実だった。
他の誰でもない――こんな難物を好きになったのは初めてだったから。
抱きしめた身体からは墨の香りがする。上等な品だけが持つ、清浄な香り。
「お前は、何処まで俺に望む?」
「……もう、いいんだ。口づけの事実より、君の気持ちがわかって最高に幸福な気持ちだ。これ以上何かしたら死んでしまうよ」
「……馬鹿だな」
「そうだね」
楸瑛には、たとえ罵りであっても、いつもと同じ言葉が心地よかった。
何も変わらなかった。いつもと同じ絳攸こそが――愛しかった。
(強制終了)
お前ら中学生か!笑(管理人の精神年齢がバレる・・・)
ここだけの話にしといてください。
だって楸瑛がオトメすぎる!