※突然ですが、拉致監禁された絳攸を楸瑛が助けにくるところから話が始まります。
物語性はありません。
※双花両想い前提で、結ばれないかんじ。

 

 

 

ふいに地面が震えた気がして、絳攸は瞬きをした。激しい雑踏と、剣戟の音と、怒声が聞こえ、間もなく閉じ込められた室の戸が開かれる。絳攸はじっとそちらを見ていた
が、差し込まれた光の眩しさに目を眇めた。

暗闇の中でさえ凝らし続けた目から力が抜け、瞼が下りてゆく。体力と精神力の限界だった。後ろ手に括られた両腕にはすでに感覚など無い。
しかし、これは安堵ではないと、霞がかった意識の中で自分に言い聞かせる。
そんなことは絶対に認めない。死んでも、認めない、と。

例えば其処に現れたのが静蘭であったなら、と思う。
でなければ、顔も知らないような人間でも良かったのに。
逆光で顔がよく見えなかったが、絳攸がその男を間違えるはずもなく。

――なぜ、どうして。

「絳攸!」

最悪なのは、それが藍楸瑛であることだった。

 

 

縄を断ち、闇の中から引きずり出した絳攸を膝上に抱き上げる。
いつもきっちりと纏められた髪は今は半分が解けていて、それが憐憫を誘う。抱えあげるために掴んだ袖はぐっしょりと濡れていて、頬に手を添えれば此方がぞっとするほどにその肌は冷たかった。
楸瑛は彼の名前を呼ぶ。
その瞳が開かれるのを待って。もう一度唇から己の名が紡がれるのを願いながら。
そして、その人形のように動かない身体を抱きしめた。
力なく投げ出されたままの腕が、青白いその肌が、生きている人間のものであると確かめるために。
「絳攸」
どうか、応えて。

 

 

閉じた視界の向こうの楸瑛が、大きな手で頬に触れてくる。
冷え切った身体にそれは、灼かれるかと切なくなるほどに熱く。
融けてしまうかとさえ、思った。或いは消えてしまうかと。

きみに触れられて。

感じるこの気持ちは幸福ではない。
喜びなどでは、ない。
認めない。
それは、畏れ。むかし彼への気持を自覚してから己に課した誓約が、霧散してしまうことへのおそれだった。

疲弊した身体にはしがみつく力さえ無く。だが、それでいいような気がした。

――俺は、お前をお選ばない。楸瑛。
「絳攸」
だから、そんな声で呼んでくれるな。

お前は、俺の一番にはならない。
俺も、お前の一番にはなれないから。

――伝えなければ。

 

 

うっすらと、目が開いた。
「絳攸・・・!」
「・・・・・・」
しかし、腕の中の彼は感情の無い茫洋とした瞳で楸瑛を眺めるだけで。精神に異常をきたしたかと楸瑛は不安になる。
「絳攸、私がわかるかい?どこか痛む?」
「・・・しゅう、えい」
「うん」
かすれた声が痛ましかったが、名を呼ばれて楸瑛は安堵の笑みを浮かべかけた。
――が。
「なんで・・・」
続いた疑問の言葉に眉を顰めた。
「え?」
「どうして、おまえがきた」
「君を助けるために決まってるだろう」
「・・・どうして、おまえ、なんだろう」
「絳攸、大丈夫?」
どうにも楸瑛には絳攸の言葉の意が酌めない。よく観察すれば絳攸の視線は楸瑛の方へ向いてはいたが、楸瑛を見てはいなかった。
もしかしたら錯乱状態にあるのかもしれない。そう思って宥めるように語りかけた。
「もう、安心していいんだよ。眠ってもいい、私がそばに居る」
「なぜ、ここにいる」
それでも止まぬ理不尽な問い。どれだけ心配したと思っているのか、と楸瑛は思わず唇を噛む。
まるで、助けに来てなど欲しくなかったように。現れた楸瑛を責めるように。
「なぜ――」
「私で悪かったね。さあ帰ろう、みんな心配しているから」
言葉に棘が混じってしまったことに楸瑛は心内で舌打ちした。相手は体力的にも精神的にも弱っているのに。
しかし――
「答えろ、楸瑛。どうして貴様が此処にいる」
「君、いい加減に――」
気づくと、絳攸の表情は酷く真剣だった。しばし見つめあって、楸瑛は諦めた。
――彼の、望む答えを。

「偶然だよ。国王陛下の命を受けて、いくつか捜索隊を組んで、偶然私の隊が君を発見した」

偶然、だと。けして、君が特別だからじゃないと、言えばいいのだろう。

納得した?
楸瑛が絳攸の顔を覗き込むと、彼は眩しそうに、いっそ笑みを浮かべそうな穏やかな表情で言った。

「正解だ」

そして、糸の切れた人形のように昏睡状態に陥る。
楸瑛は泣きたいような、むしろ、その無防備な額を指で弾いてしまいたいような複雑な気持ちになりながら、絳攸の体を抱え直し立ち上がった。

 

 

 


2.意地の張り合いでこじれる喧嘩
喧嘩してない。かろうじて意地は張ってる。
本当は喧嘩してるコメディを考えていたんですが、その底辺におくはずの二人の心理を考えていたら
小説じゃなくて、管理人のメモ的なものになってしまいました。
でもしっかり書いておきたいとこなのでここに。

つまらない補足
楸瑛と絳攸には、お互いより大切にしなくてはいけないものがたくさんありますよね。
これの絳攸は、楸瑛の中の自分の位置が一番上にきてしまうことをおそれています。
いざというときに、相手のことが捨てられるかと。
楸瑛はもうちょっと楽観的。
まあ、二次創作妄想ですけども!

原作設定な二人が好きで、でも仲良しな二人も好きな管理人のジレンマを具現化したブツといってもいいかもしれません。

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