すでに二人はできあがってる

 仰向けになった楸瑛の上に、ゆっくりと絳攸が落ちてくる。
まるで絳攸の枕のような形になった。
「…重いか?」
「まあ、少しは」
  正直に言ってみた。絳攸の頭はちょうど楸瑛の心臓の上にあって、じっとこちらを見上げてくる。
  しかし、絳攸に退く気はないようだった。
  もしかしたら甘えてくれているのだろうか、と楸瑛は思う。
  だから、そのままでいた。確かに少々重いが、触れる熱が暖かい。

 

 藍家貴陽別邸に二人はいた。庭院に臨む月を愛でながら酒肴を楽しんで、絳攸がうとうととし始めたので、楸瑛が彼を来客用の臥室に連れて行った。
  明日に公休日を控えたその前夜を、二人で過ごすのは珍しいことではない。
  お節介にならない程度に、眠気にもたつく彼の着替えを手伝ってやる。脱ぎ捨てられた上着をせめてと傍にあった椅子に引掛けると、絳攸が腰帯に手をかけたままこちらを見ていた。
「するか?」
  つまりは自分を抱くかと問いたいのだろう。楸瑛は思わず苦笑した――色気も何もあったものじゃない。
  そして、首を振る。
「しないよ。だって君、すごくねむたそうだもの」
  絳攸は一瞬何か考えるような顔つきをして、頷いた。
「そうなんだ。よくわかったな」
  俺も今日はそんな気分じゃないんだと言いながら、帯を解いて肌着一枚になる。
そしてすぐに牀に潜り込むかと思われたが、予想に反して楸瑛の手を取った。
「しないけど、一緒に寝よう」

 

 

「心臓の音がする」
  月も落ちて、星明かりだけがわずかに届く闇の中。
目を閉じた絳攸がひっそりと言った。
  思ったより、すぐに眠れないらしい。何か話をしようと思って、試しに楸瑛は訊いてみた。
「……小さな子供をあやすとき、お尻を軽く叩くのは何故か知っている?」
  実際に楸瑛はしたことなど無いのだが。昔、乳母が弟にそうしていたのは
覚えていた。
「母親の腹の中にいたときのことを思い出して安心するんだろう」
「そう。お母さんの鼓動を覚えているんだね。だからそれに近いものを聴くと安心する」
「俺も同じか」
「安心するの? ならそうかもしれない」
  楸瑛は子どもと一緒にするなと怒られるかと思ったが、彼は違うことを考えたらしい。
「生みの母親など、顔も覚えていないのに」
「でも身体は覚えているのかもね。お母さんの記憶を」
  絳攸が面白くないというように鼻を鳴らす。
「どうだかな。――『傍にいるのが私だから安心するんだ』くらい言ったらどうだ」
  思わず楸瑛は絶句した。
「……どうしたの。今日は随分と積極的だ」
  すると、胸の上の彼はわずかに身じろぎして――顔を背けたかったのだろう―
―言った。

「俺にだって不安になるときはある」
 
  咄嗟に何も言えない楸瑛に、しかし絳攸は続けて。
「だが、そういう時はお前がいればいい。……それだけの話だ」

――うわあ。すごい殺し文句。
  楸瑛は今度こそ言葉を失い、思わず絳攸を抱きしめたいような衝動にかられたが、理性で何とか押しとどめた。胸の動悸が高まらないよう天に祈る。
  やっとのことで冷静さを取り戻すと、いつの間にか穏やかな寝息とそれに伴う緩やかな動きが感じられた。
  その温かさに楸瑛は誰にでもなく笑みを零すと、自らもまた目を閉じた。

 

 


14.心臓の音を聞いてる内に、ついつい。
またお題と微妙にずれた感がありますが・・・

絳攸がやっとデレ た ?

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