2/14でした。いちおう原作設定。あまーいです

スイートハニー シュガーライフ

 頁を捲る音だけが室に響く。
 其処には絳攸と楸瑛の二人しか居なかったが、会話はなく、絳攸のほうは無心に書を目で追うばかりであり、楸瑛は別に読書に興味はなかったが、することもなし、絳攸も構ってくれるようすもなしで手元にある書をそぞろに眺めていた。
 楸瑛に書を読む習慣がなかったわけではない。だが、偶の休養日に土産を持って遊びに来たというのに、訪れた時、この邸の主人は今日一日を読書に費やすと既に決めていた。それがどうも面白くない。
 しかし、ずっと欲しかった本がようやく手に入ったのだと言ったその時の絳攸の嬉しそうな表情を思い出すと、邪魔をするのもしのびない。あの顔を見るためなら、藍の所有する総ての流通経路を動員して探し当てても惜しくなかったと思ったが、彼は本当に欲しいものは滅多に口にしたりしないのだ。それがまたいじらしくもある。いつか一度彼の我儘に振り回されてみたいというのが、楸瑛の密かな望みだったりするが、楸瑛もまたそれを口にしたことはない。口にしたところで憐みの視線を返されるだけだというのが己の経験知がもたらす答えである。とは云えど、楸瑛は考える。今まで妓女たちに注ぎ込んだ金を思えば、絳攸にはどれだけのことがしてやれるだろうか。
 既に陽は落ち、部屋には灯りが入れられている。楸瑛がここを訪れた時は日はまだ中天に差し掛かったころだったが、さて、この部屋の主は室に灯りが点されたことにも気付いたかどうか。
 楸瑛はここの家人が、申し訳なさそうにもってきた肴を口に運び、そして酒を手酌で呷った。絳攸のほうは、楸瑛の淹れる茶の冷めきったのを、ときどき思い出したように手を伸ばすだけだ。きっと今日はろくに物を食べていないに違いない。楸瑛は持って来た包みに手を伸ばすと、そっと立ち上がった。

 何かが口の中に突っ込まれた。
 ぎょっとして絳攸が顔を上げると、楽しそうな腐れ縁の男がそこにいる。ちなみにその手は絳攸の顎にふれたままで、ああそう言えば来てるんだったかと思い、じとりと見上げならその指に歯を立てた。そうすると口の中「何か」が落ちて、その冷やかさにどきりとして絳攸は硬直した。
「ひゃんだほれ」
 不審なものは飲み込むべきではない。絳攸が舌を動かさないようにしながら詰めると、楸瑛は笑って言った。
「怪しいものじゃないよ。只のお菓子だ」
 そうして手を離す。絳攸は恐る恐るそれを舌の上で転がした。
 それは簡単に口の中で溶けた。そして何やらとても濃厚で、酷く甘い。僅かに酸味もあるが、とにかく食べた事のない味だった。
「何だこれ」
 絳攸は同じ言葉でもう一度問うた。楸瑛が少し得意そうな顔になる。
「元は異国の菓子らしいんだけど、私の何番目かの母上がひどくお気に召してね。藍家(うち)でいま原料から極秘開発してるんだ」
「・・・いいのか、そんなの俺に食べさせて」
「美味しかった?」
 疑問を逆に返されて、しかし、絳攸は素直に頷いた。
「・・・・・・ああ、まあ」
 それを見て、楸瑛は再び嬉しそうに包みを漁った。
「まだあるよ。食べるかい」
「くれるものを拒むつもりもないが。しかし……貴重なんだろう?」
 お前が食べればいい、と絳攸が窺うと、それこそ、と言って楸瑛は首を傾げながら笑った。

「好きな人に美味しいものを食べてもらいたい、と思ったらそれを妨げる理由なんかどこにもないんだよ。知ってた?」

 

わたしだけのSweet honey,
きみがいるだけでSugar life.
Happy Valentine!

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