2008年10月中旬から11月末までのノートのネタログ
「黒蝶」発売前なのでいろいろ目をつぶってやってください。
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楸瑛→絳攸+秀麗
龍蓮×秀麗
燕青×悠舜で茶州時代妄想
たとえば、
彼が彼女に向けるまなざしがとんでもなく優しいこととか、
その笑顔がほんとうに穏やかなこととか、
声があたたかな温度をはらんでいることとか、
触れる手が、まったくいやらしくないこととか。
(……嫉妬すべきところかな。これは)
食事の終わった卓の上で、絳攸が秀麗の勉強を見ている。絳攸の問いに、秀麗は言葉を詰まらせながらも、その瞳は探究心に綺羅めいて楽しそうだった。絳攸のほうも、秀麗が答えを出すまでじっと耳を傾けている。
(あんな貌しちゃって)
楸瑛は邵可とともに食後酒を愉しみながら、二人の様子を眺めていた。
ここの家人は、こういうときばかりは大人しい。
(でも、まあ。私が絳攸におんなじものをあげられるかって言ったら無理だし)
そこには、ただ互いへの尊敬や親愛の情しかない。
――とても綺麗なものに、楸瑛には見えた。
ずっと見ていても飽きない、幸せの光景。それは、金剛石のごとく眩しい。
(私も、そんな二人が丸ごと好きだから、仕様がないね)
ふと気がつくと、邵可がこちらを見ていた。目が合って、思わず楸瑛は笑ってしまった。
犬の憂鬱。5題 -------------Fortune Fate様からお借りしました。
※龍蓮目線で龍秀
1.厳しいだけじゃ寂しくなるよ
君の気が済むなら、どんな暴言だって許そう。
殴ってくれても構わない。
ただ私は君のココロを知っているから、決して不幸にはならない。
だから、その涙に意味はないのだ。
君の、運命を自らの力で切り開くその強さはときに、君の心までも削ってゆく。
さあ、口を噤んで。
その握りしめた手のひらを開いて。
すべてがあるがままに、在ればいいのだ。
――これ以上言葉を重ねて、君の心が寂しくなるのは耐えられない。
2.追いかけてばかりは疲れたんだ
だから呼べ、私の名を。
何時でもゆこう、何処へでもゆこう。
3.ぬか喜びはもうご免だから
そう言って彼女は成長してゆく。しなやかに、したたかに。
何でも自分で出来るように。
「『藍龍蓮』を利用しようとは思わないのか?」
そう言うと、彼女はにやりと笑った。
「そうね。切り札は最後にとっておくわ」
……悪くない。
4.愛情を試すなんて、どうかしてる
「もう!どこへ行ったのかと思ったじゃない!」
君は怒っているけれど、その釣り上った眉とか、乱れた結い髪とか、こぼれそうな瞳とか、とにかくどうしようもないくらいいとしくて。
――思わず手を伸ばした。
やわらかそうな頬は、しかしひんやりとしていて、彼女が長い間この寒空の下にいたのだと知る。
いや、知っていた。彼女ならそうしてくれるだろうと。
「冷たいな」
「誰のせいだと思ってんのよ……でも、あなたの手も冷たいわ」
秀麗は龍蓮の手をとり、踵を返す。
「菜が出来てるわよ。影月君達が待っててくれてる」
ずんずんと歩いて行く。しかししばらくすると、何も言わず引っ張られる龍蓮を、彼女は怪訝そうに振り返った。
「どうしたの?黙ってにやにやして」
「……いや、筆舌に尽くしがたい心境なのでな」
「ナニソレ?」
秀麗は呆れた様子で再び龍蓮を引き摺ってゆく。その背中に思わず口元が綻んだ。
(この気持ちをなんと言うのだろう)
この現世に言葉で表せないものがあると教えてくれたのは君。
(くせになりそうだ)
5.貴方しか愛せない自分が不憫だ
そなたより美しい女を見たことがないと言ったら、何故か殴られた。
嘘などついてないというのに。
我らが州牧が、執政室に引き籠って仕事をしている――至って普通な話だが、ここ茶州においては怪談に似た趣を以て、官吏たちの間で噂になっていた。
輔佐である鄭悠舜は、そういえば二、三日朝しか姿を見ていないと思って、何とは無しに州尹室を出た。
足音で既に気づいているだろうが、一応、話題の渦中にある室の扉を叩く。中から気の抜けた返事が聞こえ、悠舜はその戸を押し開けた。
机の上に乗りきらなくなった書簡の山。
屑入に入りきらない書き損じの料紙。
何日前のものか怪しまれる、夜食を食べた後の食器の塔。
おざなりにまとめられた仮眠用の毛布。
はっきり言って汚い燕青の執務室。床に雑然と積まれたそれらの向こう、その室の主はこちらをちらとも見ずに、書に目を落としたまま、口を開いた。
「なんか用かー?お前がわざわざ来ないで、他のやつに来させろって言ってんだろ、悠舜」
悠舜はそれには答えずに、体重を杖に預けながら室内を見渡す。
「汚い部屋ですね」
「・・・・・・わざわざ嫌味を言いに来たのかお前」
「おや、嫌味とは心外です。諫言と言っていただきたい」
「へーへー」
「ですが、ちゃんと仕事をしているようで安心しました。」
燕青の視線は依然と彼の手元にある。口だけで、彼は笑う。
「は、お前俺の保護者か。心配しなくても、ちゃんとやってるっつの」
「・・・・・・そうですね」
悠舜はじっと燕青を見据える。会話の途中から、彼の視線が文字を追っていないことには気が付いている。
散らかった室。
足の踏み場もない くらいに。
「燕青、何か心に懸かることがあるんじゃないですか」
「ねえよ。――あー、増え続ける借金とか?確かに」
悠舜は言葉の最後を待たずに、杖を掴んだ右手に力を込め、右脚を蹴り上げた。床に積まれていた書簡は、周囲の茶器を巻き込んで派手な音を立てて崩れた。
「悠舜!?」
驚いた様子でようやく燕青が顔を上げる。
面を伏せるのは、今度は悠舜の番だった。
「私の顔が見たくないなら、何処へでも行けばいい」
「え」
「貴方のお荷物になるのは御免です」
「ちょ、ちょっと待て悠舜、」
燕青が床に散乱しているものを蹴飛ばしながら、駆け寄ってくる。膝をついて、俯く悠舜を見上げた。
「潮時というやつかも知れません」
「何のことだよ!ほら拗ねんなって!」
「拗ねてません」
燕青が困ったように笑いながら悠舜の顎を取る。
「こっち向けって、な?」
悠舜はじとりと目の前の男をねめつけた。
「先に拒絶したのは貴方です」
「・・・・・・」
燕青は一瞬考えるような素振りをして、それから降参、と手を挙げた。
大雑把という言葉を体現したようなこの男は、その実、機微に聡い。掃除が好きなようには見えないが、何時だって彼の周りは奇麗に片付いていた。――悠舜が動きやすいように。
だから、この部屋の汚さは、燕青の悠舜を拒絶する心の表れだと悠舜は思った。無意識の結果だったかもしれない。だが確かに、燕青には悠舜に触れられたくないと思っている何かが在る。
――ぶつけた右の爪先が痛む。
十年の時を、共に過ごした。それでも、燕青のすべてを悠舜が知るわけではない。
彼には、茶州も自分も随分と助けられた。そろそろ、解放するべき時なのかもしれないとも、思う。
(ああ、私は――)
「心配してくれたんだろ?ありがとな、悠舜。でももう、大丈夫だぜ」
何でもなかったように笑う、その笑顔は凍てついた大地を融かす、太陽のようで。
眩しくて眩しくて、目を合わせていられない。
耐え切れず悠舜は顔を背けた。
(その太陽に避けられて、さびしかった、のだ)
それで癇癪を起しては、まるで子供ではないか。
その事実には自嘲するしかないように思えた。
――いつものように、口の端を緩やかに持ち上げて笑えばいい。しかし、どうしてか今日はそれが出来ない。
「ほら、泣くなって」
「泣いてません」
「そんな顔してる」
「してません」
ふいに、優しく抱き寄せられた。と思ったらそのまま燕青の肩に担ぎあげられる。反射のようにその肩にしがみ付いたが、抗議することは忘れなかった。
「燕青!」
「もー俺、珍しく真面目に仕事してたら疲れちまってさぁ」
燕青は気にせずそのまま歩き出す。
「珍しくって、自分で言わないで下さい」
「だからちょっと街に出て、息抜きしよう――じゃなかった、視察だ、悠舜付き合って」
「・・・・・・」
「な」
悠舜は胸の内で息を吐く。彼にしては稀なことに、もうどうでもいいような気持になった。
「・・・少し、だけですよ。まだ仕事はありますからね」
「おっし」
「では降ろして下さい」
「んーもうちょっと」
「燕青!」
燕青の背中越しに見る世界が、自分の意志とは関係なくどんどんと遠ざかってゆく。
慣れない感覚に、思わず目を瞑った。
燕青は何時だって、悠舜を置いてゆくことなどしない。それが、彼という人間の大きさ。
手放せないのは、悠舜のほうだ。
――この、あたたかな温度を。